今年の一連のバウシリーズで、これは観たいな、観ようと決めていたのは、ともちん主演の宙バウでした。

なぜ?とよく問われたので、「あひちゃんはなんとなく分かるから」とか「景子先生の作品は生で観ないと空気感がつかめないから」とか「宙のエンカレでともちんとじんじんが歌が上手いなと思っていたから」などと言っていました。

でももうひとつ、理由を隠してました。

「汐美真帆と関係ないから」

とにかく、汐美さんと関係のある舞台を観たくなかったんです。重症です。呆れて下さい。私はそんな人間です。あひちゃんは元月組だし、ケロちゃんの役をやっていたことがあります(ゼンダ)。星組・月組は論外です。関係者、たくさん出ますから。花組はあのポスターでひっくり返りました。雪組は太田先生っつーのがひっかかりました。

宙組の下級生ばっかりの舞台なら、汐美さんのことを想わず観られるだろう、そんなヘタレなことを考えてました。

退団後、全てがどーでもよくなってきてはいたのですが、思いがけず雪バウでものすごーく楽しい思いをしたので、やっぱり何でも観ておくべきだな、と考えを改めました。

初心貫徹、ともちんバウのチケットを購入しようとしたものの、なぜか掲示板にもオークションにも出ないので、慌ててぴあで最後列を購入、暑くなってきてどうも機嫌の悪い息子を連れて、観劇しに行きました。

景子先生は上手い。特に今回は上手かったと思います。景子先生はよく食卓をモチーフに使いますね。アンナカレーニナとかエイジオブイノセンスとか。今回が一番上手に使えていたと思います。

舞台のセットも全く動かないけど、それで見劣りすることはなく、奥に生演奏を入れているのに、その空間を実にうまく使えていた。セリフも全てに意味があり、美しい。特に普段の宝塚ではあり得ないほど、女性キャラクターが人生を持っていた。それも主役だけでなく、脇のひとりひとりまで。娘役さんたち、やりがいがあったろうなぁ。

人と人が出会うことで、ドラマが動いていく。お互いに影響しあって変わっていく。ちゃんと描けていました。

生徒さんたちも、ともちん、大きい大きい!真ん中に立つとその大きさがメリットであることがよくわかる。身体の大きさだけじゃなくて、ダンスも大きくてよかった。毛野ちゃんは歌をもっと聞かせてほしかったな。上手い人なんだもの。囁き声で歌える人って私は他には花ちゃんしか知りません。じんじんはさすが!あのおじいさんの歌の後で、拍手、湧いてました。カチャはスター候補ですね。あの思いきりのいい髪型は好感が持てました。
その他のキャストもしっかりはまってました。私はあひちゃんバージョンを観ていないので、Bチームのキャストでちゃんと当てがきになっていると思ったのですが、両方観た友人によると、Aに当てがきしてあったようだ、ということでした。

本当に破綻のない公演でした。ちょっと気になったことがあるとすれば、「負け組」とか「個人情報」とか今の今に流布している言葉が出て来ること。これらの言葉はリアルタイムの時代の空気を含んでいるので、その言葉が与えるニュアンスは、あと半年もすれば伝わらなくなってしまうから、もったいないなーと。

ま、その位です。景子先生はとことんこだわっているようで、お皿の上の料理の模造品も、ほぼセリフのメニュー通りだったから、ちゃんとあつらえて作っているんでしょうね。生のベリー類をつまみ食いしていたし、ワイン(?ジュースかな)も注いでいた。生モノが出て来る舞台って宝塚では私は初めて観た気がします。

こんなにきめ細かく、完成度が高く、評判もよい作品なのに。

私はのめりこめなかった。いえ、ちゃんと舞台の上の誰かに感情移入はしていたんですよ。なのに。時々ぼーっと舞台を眺めてしまった。

いかん。長安、雪バウ、長崎と、トンデモ慣れしすぎて感覚が鈍っているのか!?怖いよう。

景子先生の舞台といえば、この前のタニ&ゆうひバウ。私はゆうひバージョンしか観れなかったけど(退団騒ぎで)、それぞれのファンの人たちが「タニちゃんに当て書きされた素晴らしい作品」「ゆうひちゃんに当て書きされた素晴らしい作品」と言っていたのが印象に残っている。

どちらが正しいかなんてそれはどうでもよくて、どのファンも満足したってことだから、それは幸せなことだと思う。

今回の作品も、多分、あひちゃんのファンも、ともちんのファンもどちらも喜んでいるだろうな、と思う。

さらに観客も喜んでいる人が多いだろうな。

そう、多分、私は疲れていたんだ。あのような繊細な世界じゃないもので、現実を忘れたい、それが今の私のニーズなのかもしれない。この際、長安でも、長崎でも・・・と終演後、友人に口走りそうになって慌てましたよ。

ひとりの孤独な女の子が、自分を癒してくれる素敵な男性と出会い、恋に落ちる。信頼できる個性豊かな仲間がそれを見守る。いい話。いい話なんだけど、今の私は「よかったね」という気分が先に立ってしまう。そんないい舞台を観られてみんな「よかったね」とほっこりする。

でも自分はその中に入っていないような。

まぁ、しょうがない。もう少し前ならそういう気分になれただろう。もう少し後ならさらに懐しく思えただろう。

今の私の食卓ったら、朝昼晩合わせて30分だもんな。昼も仕事した方が早く帰れるならなるべく短縮したいし他の用事がある時もある。夜も息子と一緒ならなおさら、息子が食べ飽きる前にこっちの食事も終わらさないとな。お陰で胃が荒れまくってる。

それも幸せのひとつだろうけど、景子先生の描く食卓の風景とはかなり遠いところにある。今はね。

遠い美しい風景、観に行ってよかった、そう思う。

コメント