花組バウホール公演「スカウト」を観たのは、今を去ること1ヶ月も前。緑野こあら師匠初め、皆さんが祭りで盛り上がってる最中にやっぱり書いとくべきだったなぁ、と反省。何でもバンバン忘れる最近の私の脳みそ。「スカウト」で印象に残っているのは・・・残っているのは・・・師匠の嬉しそうな顔、かな。

いや、もちろん、舞台も印象に残っていることはいろいろある。

バウ公演は2時半からというのが私にとってはネック。午後から仕事を半休取ったとしても、劇場にたどり着けるのは、3時ギリギリなのだ。大劇場ならなんとか開演に間に合うけど、バウはどうしても間に合わない。それを知った皆から、アドバイスが次々入った。師匠から、nanakoさんから、ドリーさんから。

「開演30分後のいちか登場シーンだけは見逃さないで!」

な、なんでみんな、そんな口をそろえてそういうの?

登場シーンねぇ。舞台の上からじゃじゃーんと登場して一回転して飛び降りるとかかな?でもそれだけ皆が言うならいいシーンなんだろう、間に合うよう頑張るぞ!・・・と思っていたのに!さぁ、会社を出ようとしたら、すごーくすごーくつまんない事情で、目標にしていた電車に乗り損ねた!1分の差、だった。ここで1分違うと、宝塚駅に着く時間は20分違う。あの電車に乗っていれば、2時45分までには座席に座れていたのに!

電車の中でぐしぐしとメールを打つと、「いちか登場は2時58分!」と師匠からお返事。宝塚駅から猛ダッシュすれば間に合うか!?

走りましたよ。劇場の後ろ扉を開けたのは、ちょうどお経ソングが始まった時だった。
(ところで、バウ入り口に走りこんでチケットをもぎってもらって、そのまま階段駆け上がったのに、ホールにいた係員さんは私の座席番号知ってて、そのまま案内してくれました。その間わずか15秒ほどだと思うんだけど、入り口から中へ座席番号、連絡が入ってたのでしょうかねー?)

ちょうど通路際の席だったので、滑り込むとお隣の師匠がにっこり。私は間に合ったらしい。

なるほどなー。登場するその一瞬だけではなくて、登場する場面、なんだ。すごいわー。確かに見逃すのは惜しい場面。いちかちゃん、すごい!対するらんとむくんももちろんすごい。

もうひとつすごいことがあった。

それは、師匠のオペラ。まぁまぁ前方席で観ていたんだけど、私ももちろんオペラ使っていたけど、師匠のオペラが上がるとそこにはまっつ。方向にブレなし。薄暗い舞台の片隅にオペラが向けられると確かにそこにまっつがいる。まだ誰もいないけど?と思った次の瞬間にはまっつ登場。お陰でまっつは全く見逃さずに済みました。まっつも観ていたけど、師匠の反応と合わせて楽しませていただきました。

30分分見逃したけど、まぁまぁ、話はわかる。一番困ったのは、主人公の立ち位置がよくわからなかったこと。らんとむくんのキャラクターというか、設定というかそういうものがわからなかったので、誰に感情移入していいのか迷った。

幕間に「オサ様たちが来てますよ!」とドリーさんに教えてもらい、さらに月組退団者の話なども。

2幕目も楽しく観る。芸達者な面々が揃っている。みわっちの役はあれは未沙のえるさんの役だよなぁ。いいのか、みわっち。頑張ってたし、新たな一面開発、って感じではあったが。

気に入ったのは、ヒロインのきほちゃん。私、セリフの声のいい娘役さんが好きみたい(ex.花ちゃん)。手足が長いのも好み。長い髪、白い衣装がよく似合い、本当にヒロイン然としていて素敵。歌も上手いし。わーい。

らんとむくんはやっと和モノから脱却、ファンは嬉しいだろうなぁ。格好よかったと思う。

終演後、師匠やドリーさんとお食事しながらふと、口を突いて出たのは「この話、面白かったんでしょうか」などという、作品の根源に関わることだった。お二人は複雑そうな顔をされて顔を見合わせていた。そうだよね、どう答えればいいかわからない質問だよね。
いや、楽しんだんですよ、私も!でもなんていうか、そのー、命をおもちゃにしているという嫌悪感まではいかない、でも何も考えずストーリーにのっかってただ笑っていればいい、という話でもない、なんとも自分の中で処理しきれない思いが残ったのだ。

客席からは笑い声が響き、皆、楽しんで劇場を後にしている様子がわかった。でもこの話を「面白かったよ!」と人に勧められるかといえば、よくわからないのだ。

演出家は楽しんでるな、と思った。

この作品、ハリーは相変わらずタイトルだけ決めて後から話を作ったんだろうな。ひとつのものを一から作り上げることの大変さを考えると、「つまんない」の一言で終わりにするのは失礼だとは思う。制作者は何かを作るその糸口を見つけ、ひとつの作品に練り上げる。
ハリーが今回、糸口にしたのは、私が考えるに間違いなくいちかちゃんだ。いちかちゃんに悪魔をやらせたい、縦横無尽に舞台を跳ね回らせたい、老婆をやらせたい、そんな風に見えた。あの場面が一番、舞台が生き生きしていたように見えた。演出的に。

そこからもう一歩進めることはできなかったのかなぁ。何か、「観てその時楽しかった、笑えた」だけではなくて、何か、観る人の気持ちを変えるというかこれを観に来てよかったな、と作品そのもので(出演者の頑張りはこの際、こっちへ置いといて)思わせられる何かが欲しかったかな、と思うのだ。

チケットを取ったのは、なんつーか、はずみだったんだけど、でも観てよかったなぁと思う。面白かったよ。それは間違いなく。きほちゃん、まっつ、いちかちゃん、いろんな人を生で見る、小さいバウという劇場ならではの楽しさ。頑張って走った甲斐があった。

それは間違いない。

         ☆

「スカウト」よりももちろん後だけど、この前、宙組大劇場の2回目を観てきた。

私が観たときは、たかちゃんの調子がよい回だったようで、そしてもちろん、初日よりもずっとよさそうで、動作が身軽になり、動きにキレとまではいかないけどメリハリがあって、観ていてほっとした。動きが軽快であるということは、たかちゃん自身の気分にも反映するようで、本人の気合の張りも伝わってきて、心からよかった、と思えた。

私はずっとたかちゃん花ちゃんが大好きだった。宝塚の夢を具現化してくれる理想のコンビそのもの。どんな作品でもあの2人が出ていれば満足して帰路につけた。

だから、絶対ラストディは観る!ずっと前から友人にもそう宣言していた。どんなにお金積んだっていいわ、とも思っていた。

でも今回はもう諦めた。

2回目を観たときは、息子をチャイルドルームに連れていったのだけど、朝から息子はちょっと熱っぽく、いけるかどうか怪しかった。それでも無理して連れて行ってしまったのは、初日が最後になるのはどうしても残念だったからだろう。

チャイルドルームのスタッフさんには、こまめに熱を計ってくれるよう頼み、呼び出し用のポケベルを膝の真ん中において(普段はポケットに入れている。イキナリ鳴ると心臓に悪いので)、少しでも鳴ったら劇場を飛び出そうと思っていた。

だから場面が転換するたびに、「ここまでは観られた」「ここまでは観られるかもしれない」と集中しまくって観た。そして「ここまで」がついにフィナーレの階段降りになるまで、ポケベルは鳴らなかった。

チャイルドルームにお迎えに行くと、元気でにこにこした息子の姿。お昼寝の後、すっかり平熱に戻り、遊んでいたらしい。

満足だった。場面ごとに集中し、一瞬たりと見逃すまい、と思って観た私。そして調子のよかったたかちゃん。これが私にとってのラストディでも納得できるな、と思った。

もちろん、サヨナラショーは観たいよ。ものすごく。反面、心の中で辛い思いをしながら見ている私もいる。
「たかちゃん、頑張って!もう少し!」と。そういう思いをしながら見るのは本当は失礼なのかもしれない。舞台に立っている以上、客に満足いく舞台を見せる覚悟で、たかちゃんは舞台に立っているのだろうから。

花ちゃんのラストディも見たい。花ちゃんは他のトップ娘役さんのようなミュージックサロンも、バウもない。写真集も出さない。なんでなんだ。あれだけ長い間トップ娘役をやっていたのに。彼女なりの選択なんだろうとは思うけど。ラストディもまた、寄り添う娘役として終えるのだろう、と思う。

宝塚ファンになるのがもう少し遅かったら、この偉大な娘役さんを生で観るチャンスはなかっただろう。そう思うと、ここまで続けてくれたそのことだけで、花ちゃんに感謝しているのだ。花ちゃんに間に合ったのだ、私は。だから最後の日、だけにこだわらなくても、いいかもしれない。

たかちゃん花ちゃんの最後の舞台が、二人にとって幸せな舞台であることを、ずっとずっと祈っている。そしてどこかから、ラストディのチケットが降ってこないかなぁ、とも!

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